2010年07月11日

固有値本

oxy君の日記に倣って最近読んでいる本を紹介してみます。

Twitterでも何度つぶやいたのですが、The Matrix Eigenvalue Problem: GR and Krylov Subspace Methodsを最近読んでいます。非常に良く解説された、固有値計算について最新の研究を纏めた教科書です。但し、人を選びます。

本書では、いかにして行列を固有値計算に性質の良い形に変形していくかという点に絞り、QR法の同類(本書ではGR法と記述)と、Krylov部分空間法を解説します。説明は首尾一貫して基礎理論→実例の順に行われます。例えば3章ではeliminationの基本型をGRアルゴリズムとして紹介し、これでもかこれでもかと応用例(QR, LR, HR, SR)を示しています。

数学書として見ると、手間の掛かる(が重要でない)証明が演習問題に回されることで、全体の見通しが非常に良くなっています。演習問題は一歩一歩細かく証明のステップを示してくれるので、行間が空きすぎると言うことはありません。

私にとって収穫が特に大きかったのはproduct eigenvalue problemの部分で、ABCDEx=λFGHIJKxのような式をどう安定に解くか、という内容です。Product eigenvalue problemを紹介し、一般的な形式としてcyclic matrixに落とした後で、「特異値分解に特化した解法」としてdqdアルゴリズムを(再)紹介します。この一連の流れは非常に美しいです。私の頭の中で個々の別々のアルゴリズムとして記憶されていた固有値・特異値計算の数々の手法が繋がっていく過程が爽快でした。

欠点としては(M)RRRなどの比較的新しく、かつ重要な固有値計算方法が載っていないことが挙げられると思います。良くも悪くもこの本はQRの兄弟たちを基本としています。D&CもRRRも魔改造されたJacobi methodも載っていません。筆者は決してこれらを無視しているのではなく、はっきりと有効性を認めているので、せっかくだから纏めて欲しかった気もします。

本書は自分で固有値・特異値計算を実装する事を考えている、修士以上の学生さんや、意欲のある学部4年生などにお勧めできます。逆に、ライブラリを使うだけの場合はZ. BaiのTemplates for the Solution of Algebraic Eigenvalue Problems(Amazon
) の方がアルゴリズムの選択チャートがあるので、簡便だと思われます。
posted by chun at 23:57| 日記